豊里の歴史・文化
とよさと昔話(ゴンペ山の狐)
「ゴンペ山の狐」というお話しです。
保手部落の灰塚神社の近くに、「ゴンペ山」と呼ばれる山があります。
正式 な名称はわかりません。このあたりの方言で、こう呼ばれているのです。
むかし、灰塚の神社に神楽を奉納するため、大勢の法印たちがこのゴンペ山を通りかかると、一匹の狐が気持ち良さそうに昼寝をしているのを見つけました。
法印たちの中に、一人のいたずら好きの法印がいて、(狐のやつ、気持ち良さそうに寝てやがる。ひとつおどかしてやれ。)と考え、後ろから続く法印仲間を振り返り、
「今、おもしろいことやるから、みんな見てろよ。」
と、そっと狐に近づきました。
「やめろ、やめろ。あとで狐に化かされても知らないぞ。」
と、皆の止めるのも聞かず、そっと狐の耳元に近寄り、持っていたホラ貝を思い切り吹き鳴らしました。
さあ、狐の驚いたのなんの、大あわてにあわて、3尺も跳び上がって一目散に逃げ出しました。そして後を振り返り、指をさして笑い転げている当のいたずら法印をじっと見つめると、やがて姿を消しました。
さて、神楽の奉納も無事済んで、法印たちがごちそうをいただいて帰る頃には日も西に傾いており、一人また一人と別れているうち、とうとうくだんの法印だけになっていました。
もうとっぷりと日も暮れ、すっかり暗くなったので、足早に我が家へと急ぎました。
後ろの方に気配を感じて振り向くと、遠くの方でかすかに明かりが見え、その明かりが次第に近づいてきます。見ると、男二人がなにやらかついで来る様子です。
さらに近づくと、法印は腰を抜かさんばかりに驚きました。なんと男二人がかついでいるのは棺桶ではありませんか。しかも、自分のあとをついてくる様子です。
法印は、急ぎ足になりました。すると、男二人も急ぎ足になります。今度は二人をやり過ごそうと立ち止まると、男二人も立ち止まります。こうなったら、何とか逃げようとかけ出しましたが、男二人も走り始めます。逃げても逃げても追いかけて来るのです。
川沿いの大きな松の木の所に来て、とうとう疲れきった法印は、松の根元に座り込んでしまいました。すると、驚きあきれている法印の目の前でそこを掘り始め、棺桶を埋めるとさっさと行ってしまいました。
そうするうち、土がむくむくと起き上がり、死人が出てきたではありませんか。法印は、もう夢中で松の木に登りました。しかし、その死人も木に登って追いかけてきます。 「ほ~えさま~、ほ~えさま~。」と呼びながらジリジリと近づいて来るのです。
法印は、夢中で護身用の刀を抜き、「ええい」と切りつけましたが、切られた死人が二人に増えてしまいました。また切りつけると、また二人に増えてしまいます。切れば切るほど増えるのです。
「ほ~えさま~、ほ~えさま~。」
「ほ~えさま~、ほ~えさま~。」
木のあちこちから声が聞こえ、とうとう松の木のてっぺんまで追い詰められ、「もうだめだ!」と叫んだとたん、バリバリと木の枝が折れ、真っ逆さまに川に落ちてしまいました。
そのとたん、明るい日ざしの中、ずぶ濡れで川の浅瀬に立っている自分に気がついたのです。
「あの狐に化かされた。」とすぐに悟り、後日、法印仲間に「つまらないいたずらはするものではない。」ともらしたということです。
ゴンペ山(保手地区)