豊里の歴史・文化
とよさと昔話(アブに手斧(ちょうな))
アブに手斧(ちょうな)」の伝説です。
草分観音は庚申地区にあり、この地方が開発された頃、元禄11年の建立と伝えられている。
手斧(ちょうな)とは、木を削るための大工道具の一つで、昔は普通に使われたが今はあまり使われていない。
修行のため、諸国を行脚する僧を六部というが、昔、その六部がここに来たときのこと、ちょうどその日、付近の農家に赤ん坊が生まれた。
六部は、草分観音堂に一夜の宿を借り、生まれた赤ん坊の行く末を案じながら眠りについた。
深夜になって、夢枕に観音様が現れたので、生まれた赤ん坊の寿命を尋ねてみた。
すると、観音様は、「アブにちょうな」と謎のような言葉をささやいた。
六部は、何のことかわからず不思議に思ったが、翌朝、当の生まれた赤ん坊の家を訪ねた後、修行に旅立った。
六部は、それから「アブにちょうな」という謎の言葉がずっと気になっていたが、その後修行旅を続け、20年程経って再びこの地にやって来た。
そして、再び草分観音堂に一夜の宿を借り、翌日、20年程前に生まれたその赤ん坊の家を訪ね、その子が元気でいるかどうか確かめてみた。
その家の人の話は、六部が驚くようなことだった。
20年程前に生まれた赤ん坊は、体が非常に丈夫で、体格も人より大きく、立派に成長して腕の良い大工となった。
ところが、ある日の作業中、大工の周りをアブが飛び交い、うるさくてしょうがない。そこで、それを振り払おうとして、誤まって持っていたちょうなで足に傷を負い、その傷が原因で死んでしまったという。
そういう訳で、葬式を済ませたばかりですと、その家の人が泣く泣く話してくれたが、その日がちょうど忌日に当たっていたと聞いて、六部はようやく「アブにちょうな」という言葉の謎が解けた。
そして、草分観音の霊験を語り伝えたということである。