豊里の歴史・文化
とよさと昔話(バケモノザ)
「バケモノザ」というお話しです。
「バケモノザ」というのは、化物の住む沢のことで、ここの方言での呼び方です。
山通地区の峯山から雨堤(あまづつみ)に通じる林道の途中に沢があり、この沢を誰言うともなくバケモノザ(化物沢)と呼ばれています。
むかし、この沢の近くに樹齢何百年という大きな木があり、その木の上に、恐ろしい老婆の顔をした化物が住んでいたということです。
人々は恐れて誰も近づくことがありませんでしたが、この道が通れないので、さらに険しい山道に廻り道しなければならず、大変難儀していました。
そこで、この化物を退治しようと、大勢の猟師たちがバケモノザにやって来ました。見上げると、木の上で老婆が糸車を回して糸をつむいでいる様子です。
そばにある行灯(あんどん)の光がゆらゆらゆれて、長い銀髪に反射して時折ピカリと光るうえに、老婆の顔が何とも気味悪く、思い思いに勇気をふるいおこして火縄銃を撃ちました。
銃声がこだまして、確かに老婆に命中したのですが、老婆はまったく平気な様子です。おまけに猟師たちをにらみつけると、ニタリ、ニタリと笑うではありませんか。その恐ろしいこと、猟師たちは肝をつぶして逃げ帰りました。
その後、何人かの猟師がバケモノザにやって来て、何度も化物退治を試みましたが同じ結果でした。
そんな時、こうしたうわさを聞いて、一人の智惠ある猟師がバケモノザにやって来ました。
彼は考えました。「相手は化物だ。尋常な手段では退治できない。きっと何か方法があるに違いない。」
そう思って、同じように老婆を狙って撃ってみましたが、老婆は彼をあざ笑うかのようにニタリと笑うばかりです。
猟師は、その恐ろしさに背筋が凍る思いがしましたが、勇気をふるいおこし、もう一度木の上をじっと見つめました。
木の上では、老婆が糸車を回しており、そばにある行灯の光がゆらゆらゆれて、長い銀髪に反射して時折ピカリと光っていました。そのとたん、猟師は「ハッ」と思い当たりました。
「そうだ、行灯だ。」
猟師は、こう考えました。
老婆は仮の姿で、行灯の炎が長い銀髪を光らせているのは、仮の姿の老婆を操っているに違いない。だから、化物の正体は行灯なのだと・・・・。
猟師は、老婆のそばでゆらゆらと燃えている行灯の炎の一点に狙いを定め、心の中で祈りながら引き金を引きました。すると、銃声とともに「ギャー!!」という恐ろしい悲鳴が山にこだまして、明かりが消え、あたりが真っ暗になったと思うと、にわかに黒雲がわき出で、すさまじい嵐となって一晩中 吹き荒れました。
その翌日、猟師がバケモノザに行ってみると、大樹におびただしい血がついており、それが山奥の方に点々と続いていました。
連れだって来た村人とともに血の跡をたどっていくと、深い洞穴を見つけました。その中に入っていくと、猟師も村人も一様に驚きました。なんとそこには何百歳にもなろうかという大むじなが額を撃ち抜かれて死んでいたということです。
化物沢(保手地区付近)